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  • 執筆者の写真CRZKNY

ブラッド・メリディアン 火を継ぐ者

びっくりすることに、記事を書こうとしたら、つい先日まで机の上にあった『ブラッド・メリディアン』が、見当たらない。。。しばらく探したけど謎に見つからないので、、、とりあえず記憶を断片的に拾いつつ書いていきます。作者はコーマック・マッカーシー。まだ現役で書いている(2013年の『悪の法則』の脚本以来新作は刊行されてないようですが)20世紀を代表する作家の一人です。


マッカーシー作品に馴染みのある方だったら読み飛ばしてもらっても構わないんですが、未読の方に向けてものすごく簡単にこの作家を紹介すると、表題の『ブラッド・メリディアン』を刊行後、国境三部作と呼ばれる名作群を出したのち(『内1冊の『全ての美しい馬』はベストセラーとなり映画化もされてます)、近年では『ザ・ロード』(決して虎舞竜のそれではない)というポストアポカリプス世界での親子の地獄旅を描いた作品でピューリッツア賞を受賞していたり、『血と暴力の国』というクライム作品はコーエン兄弟によって映画『ノーカントリー』としてアカデミーを何部門か受賞した、というアメリカではかなりスタンダードな作家です。


本書『ブラッド・メリディアン』の舞台は、19世紀の西部~メキシコにおけるインディアン頭皮狩り部隊に加わった「少年」と呼ばれる主人公と、「判事」と呼ばれる神の倫理とでも呼ぶべき戦争機械のような男の、暴力と倫理を巡る凄惨な地獄旅を描いた神話的な物語です。


若干話が逸れますが、私の、全く個人的な動機からこの記事を書いていますが、『ブラッド・メリディアン』という小説は、CRZKNYが2017年にリリースした三枚組アルバム『MERIDIAN』の元になった小説でもあります。

そんな作品に感化されて出来たのが私のサードアルバム『MERIDIAN』なわけですが、当然ながらアルバムの内容はこの小説をなぞるようなことはせず、あくまでも、インスピレーションの源、きっかけ、岩を叩いて火をおこすその火花、のようなものとして、扱わせていただきました。具体的に私がどういう世界を想像しながらあの音を作ったのかについては個々リスナーの皆様の想像力にお任せしますが、当時宣伝文句として使用した『踊るか、叩き割るか、燃やせ』というのは、よくこのアルバムの世界観を言い当てた言葉だなと。同時に『ブラッド・メリディアン』で展開される徹底した暴力が支配する側面に、非常に感化されたものだとも言えます。


この小説に限らず、暴力と倫理というテーマはマッカーシーの小説の主要なテーマなのですが、暴力とはここでは直接的な暴力そのものも指しますが、それを超えた世界を構築する、神の視点から与えられたギフトのようなものとしても描かれます。現に、本書においても「判事」と呼ばれる男が語るのは「戦争は神である」「戦争は人類が誕生する前から存在しその使い手を待っていただけだ」など(すみませんこの時点でもまだハードカバー、文庫共にどこにいったのか見当たらずうる覚えの台詞回しです)、世界はこのようにして作られている、という神の視点からの冷徹なまでの倫理の一面を暴力という事象を通して読者に見せつけます。

そして片や主人公である「少年」と呼ばれる存在は、自身も生まれた時から「見境のない暴力への嗜好を宿している」と語られるように、常に暴力の最中で生きることを宿命づけられた存在として描かれます。ただ、同時に「少年」は「判事」との対比として、かろうじて、無意識にではありますが、その暴力を否定する(慈悲をかける、殺さなければ殺されるかもしれない相手を3度も殺さずに逃してしまうなど)行為によって、人間が人間たらしめるための最後の砦のようなもの、つまりは人間の、倫理を代表する存在として描かれます。


神の倫理が、世界を作り出す暴力であるとして(それを行使し支配し従属させ、虐殺する)、その世界を作る人間に与えられた、人間の倫理もまた、世界を世界と認識するために必要不可欠なものである(生きるものを思いやる、命を、意思を、倫理を繋ぐ)。


この小説は、各章の冒頭に、その章でこれから起きるすべては箇条書きで記されています。これにより、未来は不可逆であり、すべてはすでに定められたものである、という冷徹な視線を感じ、読者は神の存在を意識することとなるでしょう。これも一層この小説が神話的様相を帯びることにつながっています。


ただ、神話と言いましたが、その内容は所謂一般的な神の戯れのごとき世界ではなく、何ページに一回は殺人か暴力が起きるハードコアな展開がひたすら続く、端的に地獄のみが描写されていく小説なのですが、その暴力描写も夜の砂漠の地平線に現れる星々や草木の息遣いと同じ目線で描かれるため、暴力小説?ヒャッハー!と思って読むとその圧倒的カタルシスの無さから、意気消沈してしまうこと間違いなしな作品でもあります。

主人公である「少年」の末路はその結末を以って、唯一「判事」の遂行する倫理を否定することになるのですが、それはマッカーシー小説に幾度となく現れる「火を継ぐ者」のそれと完全に一致します。


世界はそのようにして出来ている。誰もその暴力と倫理からは逃れられない。


本書に出会って、生まれては死んでいく命と世界の関わりについて、読後に、人生でなかなか喰らうことのないレベルの、脳髄にキツい衝撃を受けた小説でした。もちろん私のような文盲野良アーティストが言うまでもなく、大傑作です。今はハヤカワ文庫からも出ていますので、興味持たれた方は、是非お手に取ってみてはいかがでしょうか?


追記:ようやく本が見つかってうる覚え参照間違ってないか確認しましたが、そこまで間違ってなかったのでそのままでいかせていただきます。なかなか覚えてるもんですね。

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